2024年11月18日現在
226,401人のサービス介助士が全国で活躍中!
(左)エアポートコンシェルジェの立木絵理さん(右)物販店担当の楓 真理さん
日本空港ビルグループは、羽田空港ターミナルビルの建設・運営会社として1953年に設立された日本空港ビルデング株式会社を中心に、空港ターミナル施設の保守管理、旅客サービス業務、ターミナル内の店舗運営業務、機内食製造販売、広告業などを行う各社で構成される企業グループである。
羽田空港国内線旅客ターミナルビルの建設・管理運営を行うとともに、国際線旅客ターミナルビルの主要な業務を受託している。さらに羽田空港での物品販売のほか、成田国際空港、関西国際空港、中部国際空港でも免税品などの販売・卸売を行い、「訪れる人にやすらぎを、去り行く人にしあわせを」というCS理念のもと、空港利用者へのサービスの向上に積極的に取り組んでいる。
日本空港ビルデング株式会社 URL:http://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/company/
日本空港ビルグループが、サービス介助士の導入を開始したのは2003年11月。当時総務部でサービス介助士の導入担当者であった、日本空港ビルデング株式会社執行役員・管理本部総務部長の田村幸宏さんは、導入の経緯を次のように語る。
「快適で安全な空の旅の始まりの場である空港のターミナルビルを管理・運営する企業グループとしての主要な経営方針は『絶対安全』と『顧客第一主義』の2つです。「顧客第一主義」の面では、快適で利用しやすいターミナルビル施設の整備とともに、高齢者や障がい者などの交通弱者といわれる方々にも、施設を快適に利用していただくためのサービスの向上も含まれます。
サービス介助士では、車いすの操作や歩行の介助などの知識や技術とともに、実技教習で、高齢者疑似体験を行ったり、介助される側にもなって車いすの操作や視覚障がい者への手引きを学ぶことで、介助されるお客様の立場や気持ちも体験できるとのことでした。その体験を接客サービスや施設の改善に生かし、『お客様にやさしいハートフルビル』づくりに役立てていけるのではないかと考え、案内や販売など、お客様に直接接する部署のスタッフを中心に、当初は100名のサービス介助士を配置するという目標を立てて取り組みを始めました」
田村幸宏執行役員・管理本部総務部長
100名のサービス介助士配置後も取り組みを継続し、2011年11月現在、日本空港ビルグループ各社では、羽田空港をはじめとする各空港などで238名のサービス介助士が活躍している。その中から羽田空港の国内線ターミナルビルで勤務する2名にお話をうかがった。
立木絵理さん(羽田旅客サービス株式会社業務部・エアポートコンシェルジェ)
エアポートコンシェルジェは、入社半年を経過するとサービス介助士を受講するのですが、私は就職活動をしていた専門学校生のときに取得しました。専門学校の先生からこの資格について聞いていて、たまたま当時の自宅の近くに、日本ケアフィットサービス協会の市ヶ谷共育センターがあったので、場所も近いし受講してみようかなと思ったのがきっかけです。当時から志望していた空港での接客に役立つ資格であることも、取得したいと思った大きな理由でした。
実技教習では、高齢者疑似体験が一番印象的でした。高齢者の身体の感覚に近づけるために、白内障と同じ見え方になるゴーグルをかけ、自分の腕や足に重りやサポーターをつけ、手袋をして指先を2本ずつ縛った状態で、自動販売機でジュースを買ったのですが、硬貨を入れるのが本当に難しく、なかなか入りませんでした。また、その自動販売機の前にほんの5cmほどの段差があるのですが、その段差がとても怖く感じました。
車いすの操作も、実際に自分が乗る側になってみてはじめて、介助する人を信頼できるコミュニケーションがないと、とても怖いということがわかり、「声かけ」の大切さを実感しました。
サービス介助士の資格取得は、実際に就職活動にも役立ちました。資格を取得できたことへの達成感が自分の力となりましたし、学んだことにより、介助技術について面接で自信を持って言えたこともよかったと思います。結果として、希望の職種につくことができました。
エアポートコンシェルジェは、空港内を巡回しながらお客様にお声かけして、お手伝いの必要なお客様のケアやお問い合わせの対応など、一人ひとりのご要望にお応えする案内係です。高齢のお客様や、視覚に障がいのあるお客様、車いすを使用されるお客様などが空港内を移動されるときのアテンド(付き添い)のときには、学んだ介助技術が役に立っています。
アテンドしたお客様に「ありがとう。助かりました」という言葉をいただいたときは、とてもうれしく、やりがいを感じます。お客様との会話も楽しく、いろいろな方の体験談をうかがう中で、高齢者や障がい者への理解も少しずつ深まってきたように思いますし、介助技術や心のあり方についてもさらに学ぶことができています。
仕事でお客様にお声をかけていると、プライベートのときでも、気になる方にはついお声をかけてしまいます。先日も友人と温泉旅行に行ったときに、視覚に障がいのある高齢の方とバスで一緒になり、座席に座ったり、乗り換えのバス停に移動したりするときの案内をしました。 その際に私が「2歩先に段差があります」と説明したのを友人が聞いて、「あの伝え方よかったね」と言ってくれました。私にはごく当たり前のことだったのですが、サービス介助士として基本を学んだから自然にこのような対応ができるのだなと改めて気づかされました。
その一方で、まだまだ課題もあります。以前、国際線から国内線に乗り換えられる、車いすご利用の外国のお客様の対応時に、身体の大きな方だったので、スタッフ2人でアテンドしました。そのときについ「もう少し右に寄って」などと、スタッフ同士日本語だけで会話してしまいました。
日本語のわからないお客様は不安な様子でしたので、「配慮に欠けていた」と思いました。最後にお別れするときには笑顔になっていただけたのですが、とても反省しました。いろいろな経験を積むなかで、もっと柔軟に対応できるよう自分を高めていかなければと思います。
楓 真理さん(羽田エアポートエンタープライズ羽田営業所)
羽田エアポートエンタープライズは、空港内の物販店を運営している会社です。私は羽田空港内の各店舗を回り、スタッフの育成・指導や、店舗で扱っている商品情報を取りまとめ、お客様への案内に役立つ情報発信などを行っています。店舗スタッフと一緒に接客をしながら指導することもあります。
サービス介助士を取得したのは2004年です。「おもてなしの心」を学べたことが、サービスマインドの部分でとてもプラスになっていると感じます。高齢者や障がい者だけでなく、どんなお客様と接するときにも必要なことですので、学んだことを思い出しながら接客するようにしています。
実技教習では、車いすの操作がとても難しかったです。車いすにふれること自体はじめてでしたので、車いすを動かす前に、乗っている方の足を足台に乗せることをつい忘れてしまったり、段差を乗り越えるときに力を入れすぎてしまったりして、とても苦労しましたが、学んだ後には自信がつきました。また、介助される側を体験できたことも、とても印象に残っています。自分が操作したときはゆっくり進んでいるつもりでも、車いすに座ってみると、動きがとても速いと感じたり、怖さを感じたりすることを実感しました。
店舗には、障がいのあるお客様も来店されますが、付き添いの方がいらっしゃったり、航空会社のスタッフが買い物を手伝う場合も多いので、私たちが直接お手伝いする場面はそれほど多くはありません。しかし、サービス介助士資格を持つスタッフは、車いすをご利用の方とは目線を合わせてご説明することや、ショーケースの外に出て商品をお見せするなどの対応がスムーズにできていると思います。高齢のお客様が小銭を出しづらいときには、トレイを差し出して一緒に数えてさしあげたりもしますね。商品の陳列や価格の表示も、お客様の買い物の様子をスタッフにみてもらいながら、工夫するようにしています。
また、空港内の店舗間を移動している間に、お客様の移動のお手伝いをすることもあります。あるとき、視覚に障がいのあるお客様がロビーで何かお困りの様子でしたので声をかけると、第1ターミナルビルから第2に行きたいとのことで、循環バスの乗り場まで同行しました。「どちら側に立ったらよろしいですか」とうかがうなど、実技教習で学んだことの細かいところも思い出しながら、無事ご案内ができました。もしサービス介助士でなければ、自信がなくてお声をかけることさえできなかったと思います。
空港は公共の場であり、いろいろなお客様がいらっしゃいます。飛行機を利用される理由も、楽しい家族旅行もあれば、ビジネスで大切な商談に向かう、お詫びに行く、ご不幸があって急がれている……など様々です。それぞれのお客様にどう対応すれば、満足して笑顔になっていただけるのかに気づき、自分で判断して行動に移せるスタッフを増やしていきたいと思います。
サービス介助士は、そういう人材を育てるために役立つ資格だと思います。これからも、お客様の楽しい旅の1ページをお手伝いできるようになりたいと思っていますし、スタッフ全員にもその思いを伝えています。
サービス介助士を導入した効果について、田村部長は「従業員の行動に変化が表れてきている」という。
「サービス介助士資格を取得することで、よりやさしい接客ができていると感じます。たとえば、以前は高齢のお客様をご案内するときに『あちらです』と言葉だけで説明していたのが、目的の場所まで一緒に行くなどですね。自分で体験して学んだからこそ、自然にこうした行動に移せるのでしょう。非常にすばらしいことだと思います。」(田村部長)
「今後も日本空港ビルグループ各社でサービス介助士の導入をすすめるとともに、テナント各社にもこの資格取得を呼びかけ、ターミナルビル全体の接客サービスの向上を図りたい」と田村部長は語る。日本の空の玄関口・羽田空港をさらに快適な公共施設にしていくために、サービス介助士の学びがこれからも生かされていくことだろう。
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