認知症の人へのサービスに対する企業の取り組みと進め方

高齢者人口が3600万人を超え、全人口の29%以上が65歳の高齢者になった現代の日本では、高齢者の特性を念頭に入れたサービスへの変容が企業の持続的発展に欠かすことができません。
超高齢社会を見据えたサービスとは、加齢が最大要因である認知症の存在も含めたものであることが求められます。
ここでは認知症の人へのサービスに対する企業の対策や取り組みと進め方について紹介します。

目次

企業が認知症の対策に取り組む背景

国や自治体による認知症に対する取り組みの推進や、認知症そのものの認知度が広がってきたこともあり、近年少しずつ企業の認知症への取り組みが進んできています。

超高齢社会・少子高齢化の加速

冒頭でお伝えした通り、日本は高齢者の人口が全人口の29%を超え、年々増加しています。
一方で15歳から64歳までの生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けています。

高齢化の推移と将来設計(出典:内閣府 令和3年 高齢社会白書)

出典:内閣府 令和3年 高齢社会白書(PDF)(外部サイト)

マーケットとして高齢者のニーズや購買意欲を満たすようなサービスの創出、雇用では高齢者を含めた多様な働き方、介護離職を防ぐ施策、など様々な場面で課題が出てきます。

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認知症バリアフリー社会実現への取り組み

2019年に取りまとめられた認知症施策大綱(外部サイト)によって認知症バリアフリー社会の推進が目指されています。
“認知症バリアフリー”とは、認知症の人が利用しにくい様々なバリア(障壁)を、認知症の人も利用しやすくするための改善や工夫をすることです。
街づくりや移動手段などにおけるハード的なバリアフリーの他にも支援体制や認知症の人が利用できる商品・サービス開発、金融商品の推進などが含まれています。
今後はこのような取組みを進める企業を促すために、「認知症バリアフリー宣言」のような認証制度が進められる予定です。


企業が認知症対策に取り組む意義

意義① 認知症の人だけでなく認知症でない高齢者へもサービス向上になる

社会の高齢化により、加齢が要因である認知症の人の割合が増えていきますが、同時に認知症予備軍とも言える軽度認知障害(MCI)の人や認知症ではない高齢者の割合も増えていきます。

(下)認知症でない人、(中)軽度認知障害(MCI)の人、(上)認知症の人、のピラミッド

案内や手順が複雑になると、高齢者が利用しづらいサービスになり、次第に敬遠されていく恐れがあります。
認知症の人も、見当識障害により自分の置かれている状況が分からなくなることがあります。
悪化することで徘徊や不安が高じることがありますが、これには周囲の環境も影響しています。
分かりにくい案内や情報により、状況把握がしづらくなり、症状が悪化していく可能性があります。

脳細胞の損傷から中核症状が生じ、環境と性格が作用して行動・心理症状(BPSD)に至る図

認知症の人が利用しやすい認知症バリアフリーなサービスになれば、認知症ではない高齢者の利用のしやすさ・ユニバーサルなサービスにもつながり、今後、社会で大きな割合を占める高齢者のニーズに合致したものへとなっていきます。

意義② 認知症・軽度認知障害(MCI)の人の外出機会・社会参加の創出

企業の様々なサービスが認知症の人が利用しやすいものになっていけば、認知症や軽度認知障害の人の外出機会や社会参加の創出につながり、認知症の進行を緩やかにすることや、大きな視点で見れば超高齢社会そのものの活性化にもなります。
企業が認知症の人が利用しやすいサービスにすることで、どのようなことが考えられるか、鉄道事業者をはじめとする公共交通事業者を例に考えてみましょう。
認知症の人が安心して公共交通機関を利用できるようになると、以下のような循環が生まれることが考えられます。

このように交通機関を利用できるようになることで認知症の人の社会参加の機会や関連する企業サービスの利用にもなります。
就労機会にもなるためより社会の活性化につながります。

認知症の人が公共交通機関を利用できる場合に生まれる循環の図


認知症の人へのサービスに向けた企業の取り組みの進め方

超高齢社会の加速とともに高齢者だけでなく、認知症の人も見込んだサービスへと進めるためにやることは以下の4つのようなものです。

認知症についての理解を浸透させる

認知症という言葉自体は普及してきてはいるものの、人によってその理解に大きな隔たりがあり、 “認知症 = 何もできなくなる”という偏見を持っている人もいます。
まずは認知症の基礎的な知識や特性を理解することを全社的にやり、企業としての理解の底上げをします。
知識だけでいいのであれば省庁や自治体が提供する情報がありますが、認知症は人や状況により多様なため、あくまで知識であるということを留意する必要があります。
社内イントラネット上に認知症に関する教材などを展開方法などがあります。

認知症の人・高齢な人を困らせる環境要因を見直す

先述した通り、認知症の症状は認知症の人本人の心理状態や進行度合いだけでなく、環境や周囲の状況により影響されるものです。
そのため、自社が展開するサービスにおいて、高齢者や認知症の人が利用しづらいと考えられるものを見直していきます。
設備などのハード面や商品をすぐに改修することは困難ですが、制度面、情報提供、ソフト面で見直せる部分をリストアップしましょう。
障害者差別解消法などで挙げられている社会的障壁の分け方を応用して、認知症の人の障壁・バリアになりうるものを場面やサービスに応じてマトリックスにすれば、解決すべき重点課題などを社内共有することもできます。

例:金融機関・銀行店舗における認知症の人が感じるバリア

表は横スクロールしてご覧いただけます。

銀行窓口利用
事物のバリア窓口にパンフレットが多すぎで集中しづらい、など
制度のバリア申込の手順、提出物などが複雑、など
情報のバリア呼び出しが音声のみ、など
慣行のバリア認知症=即座に口座凍結と判断される、など

認知症の人への接客・接遇を意識する

認知症の人の症状や特性は多様なため、制度や知識を整えるだけでは足りず、人と人とのコミュニケーションがやはり重要です。
認知症に対する偏見から、何も理解していないだろう、と接することや、庇護する対象・弱い存在という捉え方で子どものように接することなど、など不適切な接し方に注意すべきです。
お客さまであるということを念頭にしたコミュニケーション、接客と接遇の観点から認知症の人に応対することが求められます。
また、認知症の人への応対を一人の従業員だけに任せるのではなく、チームや組織としてフォローしていくことも重要です。

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社内外の連携

認知症の人が安心して外出や社会参加するためには、社内だけでなく社外の組織とも連携することが必要です。
例えば鉄道の駅であれば、他社路線への乗換えや、駅利用後の目的地となりうる近隣の商業施設や金融機関などと連携することで、少しのサポートがあれば外出できる認知症の人もいます。
警察や地域包括支援センター、医療機関などの認知症の人を保護する、という視点の連携先だけでなく、認知症の人の社会参加やサービス利用を見据えた社外との連携が認知症バリアフリー企業には必要となっていきます。

超高齢社会において持続的に企業と社会が発展していくためには、認知症の人の社会参加が欠かせません。
この記事で紹介したような取り組みをすすめることで企業が認知症バリアフリーなサービス提供が進み、社会全体に広がっていくことが期待されます。

日本ケアフィット共育機構では、企業の認知症に対する取り組みを研修やコンサルティングで支援しています。

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