“サービス介助士”という言葉を聞くと、“介護”に関する福祉に関連した資格と思われる方もいらっしゃいます。
そのため少し遠い存在に見えますが、超高齢社会の現代、加齢による心身や生活の変化は誰にでも関わることであるばかりでなく、“生活の質/生き方の質”の向上の取組でもあるサービス介助は年齢や障害の有無を越えた、これからの社会に欠かせない考えです。
ここではサービス介助士が考える“介助”や学びの特徴をお伝えします。
いいえ、「介護」や「福祉」と
サービス介助士の考える「介助」は異なる概念です。
「介護」は入浴や食事、排せつなど生きていくために必要な日常生活の支援が中心であり、ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)を保障するための支援といえます。
「介助」はADLのお手伝いは基本的に不要であるものの、QOL(Quality Of Life:生活の質)の向上のために必要な支援といえます。
QOLは加齢や心身機能の障害、社会的障壁があることによって低下します。生活の中で物事の達成感を味わったり、コミュニケーションの輪を広げたり、社会との関わりを持つためにはQOLの向上を目指す「介助」が必要になります。
ただし、介護においてもQOLに配慮していないわけではないことをつけ加えておきます。
(参考)
介護保険制度における「要介護状態」の定義(法第7条第1項)
身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要介護状態区分)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいう。介護保険制度における「要支援者」の定義(法第7条第4項)
(1) 要支援状態にある65歳以上の者
(2) 要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたもの
(厚生労働省のHP(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo4.html(外部サイト))より)
確かに、先述のようにサービス介助士の「介助」と「介護」ではそもそもの目的や対象者の範囲が異なるため、サービス介助士の学習だけで「生きるために必要な支援」である「介護」の現場で求められる知識・技術を十分に習得することはできません。
ただし、「介護」や「福祉」の対象となる方々の「生活の質(Quality Of Life)」を向上させるためにサービス介助士の学習内容が役立つシーンはあると考えられます。
実際、サービス介助士全体に占める割合は少ないですが、介護分野のプロフェッショナルの方々の中にもサービス介助士資格を取得されている方がいらっしゃいます。
サービス介助士は別名“ケアフィッター(Care-Fitter)”ともいいます。
では「ケア」を「フィットする」とはどういうことでしょうか。
QOL向上の支援は、何でもお手伝い/支援すればいい、というものではありません。
例えば洋服を買うご案内をするときに、その人にあった洋服の色や形などをこちらから何から何まで選んで提供することはその人の満足になるといえるでしょうか?
移動のお手伝いをするときに、相手のニーズを確認しないまま、良かれと思ってつきっきりでお手伝いすることがその人の喜びになるでしょうか?
それらは時と場合によって、助かる場合もあれば、過剰になる場合もあります。
つまりQOLの向上のアプローチは、その時、その場、その人により常に変化し、一定の正解があるものではないのです。
そのためには、“手伝ってあげる”/“手伝ってもらう”といった上下関係ではなく、相互を尊重し発展しあい、共に喜ぶ“主客同一”の精神:おもてなしの心/ホスピタリティ・マインドと、100人いれば100通りのQOLの向上のやり方があるという“百人百様”の考えが欠かせません。
サービス介助士は、“あらゆる場面で「ケア」を「フィット」する”人材であることが使命といえます。
(表は横スクロールしてご覧いただけます。)
従来のホスピタリティ研修 | 従来の障害体験/福祉介護研修 | サービス介助士 | |
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対象想定顧客 | 主に健常者 | 主に障害者 | 年齢/障害の有無に関わらずすべての方 |
障害の捉え方 | 取り扱いの範疇外 | 加齢や心身の障害 (障害の医学モデル) | 心身の障害だけでなく、社会が作り出す障害 (障害の社会モデル) |
講義目的 | 一般的な接遇を身につける |
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講義形式 | 主に座学 | 主に体験/ワークショップ | 実践・変革のための講義/ワークショップ 行動のための実技演習 |
特徴 | 人権啓発/おもいやりの心を育てる | 実践のための実習試験・検定試験 事前課題による十分な学習 |
“障害”の捉え方は大きく2つあります。
例えば“目が見えない”、“足が動かない”等といった心身機能の制約を障害ととらえる考え方を“障害の医学モデル(個人モデル)”といいます。
“障害の社会モデル”は、多数派の意見を優先した社会の構造が障害を作り出している、という考え方です。
障害の社会モデルを知ることで、これまで作られてきた環境や社会のあり方を見直し、多様な人が社会に参加できる共生社会の実現のきっかけとなります。
お客さまへの接遇においてはこれまで自社で対応してきた案内方法が“障害の社会モデル”の観点から見つめ直されることで、より多くの人に満足いただけるご案内へとつながります。
また、環境が障害を作り出しているという障害の社会モデルの考えを取り入れることで、お客さまと接する現場職員だけでなく、企画や施設管理の観点から事業やサービスにイノベーションをもたらすきっかけにもなります。