掲載日:(取材日:2018-02-24)
ブラインドサッカー(視覚障がい者サッカー)が盛り上がりを見せています。その主役は、今年高校生になったばかりのひとりの少女。埼玉T.Wings所属の菊島宙(そら)選手は、女子の世界大会で最多得点を記録し、日本選手権では男子選手に混ざって大活躍。いまや、パラスポーツ界で最も注目されている選手のひとりです。2018年2月24日に開催された「さいたま市ノーマライゼーションカップ2018」でも、素晴らしい活躍を見せてくれました。
「あの子はすごいよ」。取材前の打ち合わせで聞いた言葉を理解するのに、ほんの10秒も必要ありませんでした。
南米の強豪、女子アルゼンチン代表の前に、前半5分までに2点の先制を許していた女子日本代表。ボディコンタクトを恐れないアルゼンチン選抜の選手たちに対して、女子日本代表選手たちは、気圧されてプレーしている印象が否めませんでした。そんな空気を一変させたのは、交代出場で入った、背番号10。当時中学3年生、若干15歳の菊島宙選手でした。
菊島選手は、試合が再開するやいなや、猛烈なプレッシングを開始。虚を突かれた相手選手からボールを奪い取り、恐るべきスピードでドリブルを始め、あっという間に相手陣内に侵入。そして、完璧なタイミングで完璧な方向に力強いシュートを放ってみせたのです。
その瞬間、会場を訪れた約1,000人の観客からは「おお!?」という驚きと戸惑いが入り混じった声が上がりました。その声は試合が進むに連れて、感嘆、歓声へと変わっていきます。両足の間にボールを置くブラインドサッカー独特のドリブルではなく、一般のサッカーと同じ、片足でちょん、と前に出して進むドリブル。フェイント。股抜き。そこで繰り広げられたのは、対戦相手のスタッフが「アイマスクが透けて見えているんじゃないか」とクレームを入れるほどの、常識はずれのプレーの数々でした。
試合結果は、7−3。菊島選手がダブルハットトリック(6得点)を決め、日本の圧勝に終わりました。会場は菊島選手の見せるプレーひとつひとつに興奮し、異様な雰囲気に包まれていました。そこにいた人たちは、まるで大仕掛けのマジックやアクロバットを見たあとのような「信じられない」「すごいものを見た」という感覚を持ち帰ったはずです。
ブラインドサッカーは、視覚障がい者のレクリエーションを目的として始まった競技です。プレイヤーが増え、パラリンピック種目にもなったことで競技性は増しているものの、アイマスクで視界が覆われている以上、トラップやドリブルでミスをしたり、ボールを見失ってしまったりすることを折り込んで試合は組み立てられます。ですが、中にはわずかながら超人的な空間認知能力や集中力を発揮して「見えているように」プレーする選手がいます。菊島選手は、間違いなくそのうちのひとり。見る人に驚きと感動を味わわせてくれるスーパープレイヤーです。きっとこの先、ブラインドサッカーという競技の魅力をさらに高めてくれる存在になってくれることでしょう。
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フリーペーパー『紲 Kizzna』