SDGs(持続可能な開発目標)とは、国連で採択された2030年までに全世界で達成を目指す国際的な目標のことです。
“誰一人取り残さない(Leave no one behind)”をスローガンに進められていますが、この中には当然高齢者、認知症の人も含まれます。
高齢化率が29.1%(2021年9月時点)を超える超高齢社会の日本では、加齢が最大要因である認知症の人も増えています。
今回は認知症とSDGsの取組みをどのように捉えて進めればいいか考えていきます。
なお、SDGsと超高齢社会との関連については別記事で紹介しています。
内閣府「平成29年 高齢社会白書(外部サイト)」によると、2030年には高齢者のうち22.5%が認知症高齢者になるという推計があります。
出典: 平成29年 高齢社会白書外部サイト 第1章 第2節 3 高齢者の健康・福祉より
高齢者の5人に1人が認知症の高齢者ということになります。
認知症の要因は加齢にあることから、超高齢社会で暮らす私たち誰もが認知症になりうる、他人ごとではないということです。
高齢化により認知症の数も増えることから、認知症であることをネガティブに捉えることそのものを見直し、認知症であっても安心して暮らすことができる社会にするにはどうすればいいのか?という考えへシフトしています。
そのような社会作りを推進するために、2019年に関係する省庁や認知症当事者の意見を取り入れて「認知症施策推進大綱(PDF)(外部サイト)」が取りまとめられました。
この推進は“共生”と“予防”を車の両輪として施策が展開され、“共生”とは認知症の人が尊厳と希望をもって認知症と共に生きること、認知症であってもなくても同じ社会に生きること、
“予防”とは“認知症にならない”という意味ではなく、“認知症になるのを遅らせる / 進行を緩やかにする”ことという視点があります。
このような考えにそって、以下を施策の柱としています。
ここで“認知症バリアフリー”という言葉が出ています。
“認知症バリアフリー”とは、認知症の人が利用しにくい様々なバリア(障壁)を、認知症の人も利用しやすくするための改善や工夫をすることです。
街づくりや移動手段などにおけるハード的なバリアフリーの他にも支援体制や認知症の人が利用できる商品・サービス開発、金融商品の推進などが含まれています。
今後はこのような取組みを進める企業を促すために、「認知症バリアフリー宣言」のような認証制度が進められる予定です。
認知症の人も置き去りにしない社会となるためには、従来のような、認知症を医療や福祉制度で扱われるもの、と考えるのではありません。
認知症でない人が利用する様々なものを認知症になっても利用できるように、社会のあらゆる側面から認知症バリアフリー社会へ進めることが重要になります。
超高齢社会が加速すると認知症の高齢者が増えることはお伝えしました。
企業が認知症の高齢者に対する様々な施策は後述しますが、中には、“認知症の施策=慈善的、コスト部門位置づけ”と捉える人もいるかもしれません。
ここで改めて日本の高齢化の推計を見てみましょう。
高齢化の推移と将来推計
出典:内閣府 令和3年 高齢社会白書(PDF)(外部サイト) 第1章 第1節 1 高齢化の現状と将来像
一つの区切りとしてSDGsの2030年を見ると、高齢化率は31.2%約3700万人になります。
冒頭で紹介したグラフでは、2030年には22.5%、5人に1人が認知症の高齢者という計算です。
言い換えると5人の内、4人が認知症ではない、と言えます。
ただし、認知症でない高齢者の中には、認知症予備軍とも言える軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)の人も含まれます。
図のように、認知症の人が増えれば、MCIの人、認知症でない人も相対的に増えることになります。
そして、認知症の人が抱える困りごとの原因を、その人の個人的特性・認知機能ではなく、社会面・環境面から考えてみましょう。
例えば、認知症の人が“行先やサービスの使い方が分からなくなった”という困りごとがあったとします。
その原因は認知機能の低下も要因ではありますが、社会面・環境面から見ると、
など色々考えることができます。
そしてこれらの社会面・環境面の要因は認知症の人だけでなく、多くの高齢者の困りごとにも共通します。
超高齢社会とSDGsとの関連についてはこちらの記事で紹介しています。
DGsの取組において超高齢社会と認知症の観点は類似するものがありますが、企業においてどのようなことが取組みとして考えられるか見てみましょう。
認知症施策推進大綱において成年後見制度や、消費者被害の防止についても触れられています。
SDGsでは社会保障制度や金融サービスなど基礎的なサービスへの平等な権利の確保がここで言及されています。
金融機関においては認知症の人の資産保全のための金融商品や、従業員による見守り、行政や地域支援組織との連携などにより
認知症の人の資産を守ることにつながるでしょう。
日頃からの高齢者とのコミュニケーションがなされていれば、普段と異なる取引に対しても気づいたり、ライフステージに合わせたサービス提供ができるようになることも考えられます。
ここでは高齢者の栄養について記載されており、認知症の人の「食」について考えてみましょう。
自立して生活する認知症の人は当然食材を購入して日々の食事を摂ります。宅食サービスや買い物代行などの他にも、スーパーなどで認知症の人が買い物しやすい工夫もできるでしょう。
例えば、Slow Shopping:スローショッピングという運動がイギリスで始まりました。
イギリスの認知症研究団体であるAlzheimer’s Societyの調査によると、イギリスに住む85万人の認知症の人の8割が買い物を好きな活動にあげてますが、4人1人が買い物を諦めてしまっていました。
スローショッピングでは認知症の人が買い物をしやすいように、従業員の買い物のサポートやゆっくり買い物ができる工夫がされる時間帯を設けています。
イギリスの大手スーパーマーケットのセインズベリーズ(英語)(外部サイト)では、毎週火曜日の13-15時をスローショッピングにして、従業員のサポートや休憩用のいすの設置、ヘルプデスクで嗜好にあわせたおすすめ商品の提供などを行っています。
SDGsでは社会の高齢化についての対策と同様に、認知症に対する対策について明白に関連するターゲットはありません。
認知症と健康・福祉は切り離せないものなので、認知症施策推進大綱と関連して考えてみましょう。
認知症施策推進大綱では“認知症になるのを遅らせる・進行を緩やかにする”予防について触れていますが、運動不足の解消、生活習慣病の予防、社会的孤立の解消などが認知症予防に資する可能性が示唆されています。
例えば高齢者向けのフィットネスクラブやパーソナルトレーニングなどにより、高齢者の継続的な運動機会の提供は今後より重要になってきます。
5年ごとに行われている総務省の「就業構造基本調査」平成29年度版によると、何らかの仕事についている人の55.2%が家族の介護をしています。
また、調査対象の1年間で介護・看護を理由に離職した人は9万9千人います。
参考:総務省統計局 「平成29年度版 就業構造基本調査」(外部サイト)
認知症の人が安心して暮らしていける社会作りだけでなく、その家族も安心して働くことが出来るように、今後介護離職防止の施策は多くの企業にとって重要となってきます。
介護休業制度の周知や、時短勤務・テレワークなど、多様なバックグラウンドを持つ人が働きやすい環境を整えることは今後の企業の持続発展性にもつながるでしょう。
認知症施策推進大綱にも出てくる“認知症バリアフリー”の取組みが、この目標とつながっています。
現在は75歳以上の運転免許所持者を対象に、免許更新時の認知機能検査があり、検査と医師の診断によって認知症と診断された場合、運転免許の停止・取消がなされます。
車の運転がなくなることで外出の手段や機会が減り、更に認知症が進む可能性もあります。
新たな技術を活用したパーソナルモビリティの開発や、コミュニティバスのような地域の移動支援など代替手段、認知症の人が使いやすい公共交通機関のバリアフリー化などが欠かせません。
また、現在は国土交通省より「交通事業者に向けた接遇ガイドライン(認知症の人編)」(外部サイト)が発行されています。
認知症介助士では、このガイドラインに準拠した学びを提供していますが、このようなソフト面からの認知症バリアフリーへの取組みも超高齢社会の住み続けられるまちづくりに重要な要素です。
SDGsは2030年という未来を起点に、社会課題の解決と企業の持続発展性を考えるフレームワークになります。
認知症は超高齢社会の日本において、今後あらゆるセクターが取組むテーマになるため、認知症や社会の高齢化に取組むことがSDGsへの取組みへつなげることもできます。
SDGsへの取組みは、SDGsのためだけにSDGsに取組むものではありません。
また、現状の事業をただ単にSDGsと関連付けるだけでもありません。
2030年という未来において起こりうる社会課題を解決し持続的発展を促すために現状の事業や取組みを変えるイノベーションを起こすことがSDGsの本質とも言えます。