01バリアフリー

視覚障害者の読書から考える読書のバリアフリー

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リベル・ケアフィットでは、これまで様々なバリアフリーについて紹介しております。
今回は、読書についてのバリアフリーについて、視覚障害者ライター・メグミから主に視覚障害者の読書、そして2019年に成立した読書バリアフリー法についてもご紹介していきます。


こんにちは、ライターのメグです。
私は視覚と下肢に障害があります。
2歳から4歳まで、盲学校幼稚部に通い、小学校から高校までは、養護学校(現特別支援学校)に通い、墨字(点字でない文字)を使用していました。
大学は視覚障害者のみが在籍する大学に入学し、そこで点字を習得しました。
社会人の現在は、点字のみを使用しています。
高校時代に“デイジー/DAISY※1“サピエ図書館”の存在を知り、読書が好きになりました。

私の読書遍歴〜小学校低学年向けの本を高学年になって知った。

私は、幼少期の頃、読書は晴眼の方が楽しむものだと考えていました。
その原因として、
①ほとんどの本が墨字のみで出版されているため、読むことができない
②視覚障害者が読むことができるように配慮されたものが少ない
③視覚障害者が読むことができる本があること自体の情報が周知されていない
といったことが挙げられます。

私が初めて読んだ本は、クリーニング屋の娘である、「わかったさん」が、配達先で不思議な世界に迷い込む童話絵本『わかったさん』『こまったさん』シリーズです。
一般的には小学校低学年で読み始めると思いますが、私がこの本に出会ったのは、小学5年生の時でした。
なぜ、こんなにも差が生まれてしまうのでしょうか?
その理由が、視覚障害者が読むことができるよう配慮された環境がないことや、視覚障害者が読むことができる本があること自体が知られていないことにつながってくるのです。

点字本

点字本は凹凸を維持するために厚手の紙質で
リングファイルで綴じられていることが多く、かさばるのが難点

古典作品はあるけれど、、、

小学校から高校までは養護学校に通っていたため、視覚障害者が読むことのできる本についての情報を入手することができなかったのです。
『わかったさん』『こまったさん』シリーズの情報をどのように手に入れたのかというと、時々、勉強に関しての相談をするため、盲学校に行く機会があり、 そのたびに図書室に本を選びに行くのが習慣になっていました。
図書室には、点字の本はもちろん、拡大文字の本、絵や図などが手で触れてわかるような本など、工夫の凝らされた本がたくさん所蔵されていました。
中学生になると、パソコンの使い方を覚えたことで、自分で本について、たくさん調べるようになりました。その中で、画期的だと感じたのが、オーディオブックでした。
これまで、私が何らかの配慮がされていて読むことができるかもしれないと思った本は、夏目漱石の『心』やシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』などといった、古典的な作品ばかりで、小説などは一切読んだことがありませんでした。
しかし、そのオーディオブックには、小説があったのです。
自分で調べようとしなければ、出会うことのできなかったオーディオブック。
この先もたくさんの書籍がオーディオブックになるようにと願いました。

一気に読書の幅を広げた“サピエ図書館”

高校時代に通っていたパソコン教室で、サピエ図書館を知ることとなりました。
当時、点字の勉強を始めたいと思っており、パソコン教室の講師の方に、点字の良い勉強法について伺ったところ、会員制システムの“サピエ図書館”を勧められました。
私の図書館のイメージといえば、視覚障害者が読める本の冊数は、指で数えることができるほどしか所蔵されていないというイメージがあったため、勧められた当初は、点字が勉強できるほどの本があるのかと、半信半疑でした。
しかし、15000人以上の視覚障害者が利用しているサピエ図書館のシステムは、今までの私の本に対する概念を覆しました。点字データ、音声デイジー※2、テキストデイジー※3、の3つの媒体で提供されており、さまざまな方法で読書を楽しむことができるようになっていました。 さらに驚いたのは、入手方法でした。従来では、点字本や拡大図書などを借りる際は、本そのものが郵送されていましたが、サピエ図書館では、インターネットを介して、本のデータをダウンロードできるようになっていたのです。
この方法であれば、健常の方と同様に、いつでも、好きな時に読書することができます。
振り返ると、私の本の情報の入手方法として、自分から調べることで、入手できていたように思えます。

墨字本との圧倒的な格差

一般の発売されている本の冊数と比較してみると、発売された本のほとんどが納本されている国会図書館には、既に1000万タイトル以上の本が所蔵されており、毎年新たに5万タイトル程度の本が発売されていると言われている一方、サピエ図書館には、約18万タイトルの点字データや約7万タイトルの音声デイジーデータ、約2千タイトルのテキストデイジーデータなどが所蔵され、毎年約2万タイトルが追加されています。
上記の数から分かるように、まだまだ一般の本よりも格段に差があることがわかります。
冊数だけでなく、点訳・音訳されている本のジャンルにも差があり、小説などは比較的数が多いですが、漫画やエッセイなどは、ほとんど訳されていません。
点訳・音訳をする際にイラストや図についての説明が困難なことや、著者の許可がなければ、点訳・音訳することができないという、著作権の問題も考えられます。

DAISYデータを再生する機器

DAISYデータを再生する機器

すべての人がアクセスできる読書環境へ -読書バリアフリー法-

視覚障害、発達障害、肢体不自由などの障害によって、読書が困難な人にも、健常の方と同じように読書を楽しめるように環境を整備することなどに述べている読書バリアフリー法(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が2019年6月に成立しました。

主な内容としては
視覚障害者等(=視覚障害、発達障害、肢体不自由等の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者)の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与する、といったことを目的とした法律です。
デイジー図書やオーディオブックなどのアクセシブルな電子図書の充実、図書館利用のための支援充実、出版者から製作者に対するテキストデータ等 の提供促進のための環境整備への支援、製作人材・図書館サービス人材の育成等など広範囲に渡って読書環境を整えていくことが目指されています。
また、“視覚障害者等”という表現にあるように、フォントや媒体によって読書に困難さを感じる発達障害者や移動が困難な肢体障害者についての支援も含まれていることからすべて人のアクセスできる読書環境が目指されています。

欠かすことのできない支援をできる人の存在

今後の図書館の対応として、バリアフリーに対応した本を作成する人材が必要になってくると考えます。
例えば、点訳・音訳ボランティアの養成です。現在も行われてはいるものの、指導者が少ないことが懸念点です。また、障害当事者の読書環境を知ったうえで、バリアフリーに対応した書籍を作成できることが望ましいため、ボランティア養成の指導者として、障害当事者の導入も良いと考えます。

書籍の感想をSNSなどで発信しているように、自分が出会った本のすばらしさを他の人ともシェアをしたい、という思いは多くの人にあると思います。
サービス介助士(別のウィンドウで開く)では視覚障害者への具体的な情報提供についてもお伝えしていますが、更にステップアップして点訳・音訳ボランティアなどにも挑戦してみませんか?


  • 1 デイジー/DAISY Digital Accessible Information System(アクセシブルな情報システム)の略。
    録音図書などの作成のための国際的な規格。
  • 2 テキストデイジー タイトルと文字(テキスト)で構成されるデイジーデータで読み上げソフトを使用する。
  • 3 音声デイジー タイトルと主に肉声によるデータ

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