0202019 Summer

デフサッカー男子日本代表監督が語る、共生社会

掲載日:

植松さん

デフサッカー 男子日本代表監督

植松 隼人(うえまつ はやと)さん

日本ケアフィット共育機構が発行するフリーペーパー『紲』。
本誌vol.20では、デフサッカー(ろう者サッカー)男子日本代表監督の植松隼人さんに、家庭、サッカー、コミュニケーションについて語っていただいています。
WEB版では、本誌では収まり切れなかった普段のお仕事についてやデフサッカーにかける情熱について、そして植松さんが描く未来についてのお話をご紹介します。


障がい者教育を通して互いに理解を深めてほしい

ーーデフサッカー男子日本代表の監督として活躍されている植松さんですが、それ以外の時間はどのような活動をされているのですか?

植松さん基本的にはフリーランスで働いています。週に1〜2回は聴覚障害のある子どもたちのサッカースクールでコーチをやって、それ以外の時間は講演会や日本ろう者サッカー協会で事務などの仕事、そして小・中学校でのデフサッカー体験訪問が中心になりますね。

ーー本誌でも触れられていましたが、小・中学校への体験訪問はかなり力を入れていらっしゃるのでしょうか?

植松さんはい。多いときで月に4本くらいでしょうか。オリンピック・パラリンピック教育の一環で、障害者教育というプログラムがありまして、そこに講師として呼んでいただく形です。目的は、デフサッカーの知名度を高めるためと、聴覚障害への理解を深めるため。日本では通常、一般の学校とろう学校が分かれています。地域によっては難聴学級がある学校もありますが、それは例外的。子どもたちは日常的に聴覚障害のある友だちをつくる機会がなく、障害者への理解を育むことができないんです。

ーーご自身が子どもだった頃と今とで、子どもたちの障害に対する理解に変化は感じられますか?

植松さん残念ながら私の感覚だと、あまり変化がないような気がします。障害のあるなしに関係なく、同じ教室や空間で学ぶのが当たり前の世の中になるのが理想ですが、今自分ができることとして、障害者教育を通して、子どもたちに障害に対する理解を深める機会をもっと増やしていければと思っています。

植松さん

情熱の源は、楽しさと悔しさ

ーー本誌インタビューでは、サッカーにかける思いの強さを感じました。コーチの勉強をするために大手企業を退職されたんですよね?

植松さんはい。大学を卒業した後にあるIT企業に就職したのですが、忙しくてサッカーにかける時間を取ることができませんでした。その分収入は安定していたのですが、サッカーに関わりたいという思いを抑えることができずに、そこを退職して、専門学校で2年間コーチングの基礎を学び、その後4年間はスポーツ関係の会社で働きながら学びを深めました。その6年間で今に繋がる貴重な経験を得ることができました。

ーーその情熱の源はどこにあるのでしょうか?

植松さんまず大学3年生のときにデフサッカーと出会ったことですね。高校時代にチームメートや先生とコミュニケーションがうまく取れずにサッカー部を辞めてしまった。サッカーが楽しいと思えなくなっていたんです。大学でもサッカー部には所属していましたが、デフサッカーと出会ってからは、それまでとは別世界のようにサッカーが楽しく感じられるようになったんです。仲間も増えたし、日本代表に入るという目標もできました。

ーー一度忘れてしまったサッカーの楽しさを思い出せたのですね。

植松さんはい。それから、一度味わった挫折も、情熱を掻き立てる一因になっていると思います。2009年に台北で開催されたデフリンピックの代表選考から漏れてしまったのですが、その悔しさを晴らすために、努力してデフフットサル(5人制サッカー)の日本代表になることができたし、30歳まで代表選手を続けられた。なにより、サッカーをより深く知ろうと思うようになれたと思っています。

植松さん

デフサッカーと手話を共生社会への一歩に

ーー日本代表監督としてデフリンピック優勝を目指されています。

植松さんはい。2021年のデフリンピックで世界一になりたいと思っています。今の日本代表には、世界一になれるポテンシャルはあると思います。そのポテンシャルを引き出すために、私自身も指導者としてのレベルをもっと上げないといけないですね。デフリンピックでよい成績を収めて、デフスポーツ、パラスポーツへの注目がもっと高まってほしいです。実は、日本ろう者サッカー協会のFacebookの登録者数は、障害者サッカーのなかで一番多いんですよ。それは見るスポーツとしての魅力を感じていただけているからだと思います。その数をもっと増やして、試合会場にも足を運んでもらえるようにがんばりたいです。

ーーサッカー以外に取り組んでいきたいことはありますか?

植松さん手話というコミュニケーションツールをもっと皆さんに知ってもらえるよう活動していきたいと思っています。今、一部の自治体が制定している「手話言語条例」を全国に広めよう、という呼びかけをしているんです。手話は聴覚障害者だけのものというイメージがあるかもしれませんが、老人性難聴や突発性難聴など、誰もが必要になる可能性があるんですよ。

ーー確かにその通りですね。ただ、手話は難しいという意識があるように思います。

植松さんそんなことはありません。手話は、基本的に手で形を表現するものなので、覚えやすいですし、体や表情で感情を乗せることもできるので、とても楽しいんですよ。それに、国際手話を覚えれば、世界中の手話通話者と友だちになれます。もしも、学校で英語を習うように、みんなが手話を学べるようになれば、誰もが暮らしやすい共生社会に一歩近づけるはず。まずは挨拶だけでも覚えてもらえたら嬉しいです。そしてデフサッカーの試合会場で、手話を使って応援してもらえたら、もっと嬉しいですね。

ーーありがとうございました!今後の活躍を期待しています!

植松さん

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