掲載日:
電動車いすサッカークラブ Yokohama Crackers キャプテン
株式会社 マルハン 人財部 CSR・障がい者スポーツ推進担当
永岡 真理(ながおか まり)さん
映画監督
中村 和彦(なかむら かずひこ)さん
日本ケアフィット共育機構が発行するフリーペーパー『紲』。
本誌vol.21では、電動車いすサッカー選手の永岡真理さんと、永岡さんを中心に電動車いすサッカー選手たちを追いかけたドキュメンタリー映画『蹴る』を制作された映画監督の中村和彦さんに話をお聞きしました。WEB版では、本誌に収まりきらなかった映画制作の裏話をご紹介します。
ーー撮影中の感想をお聞かせください。永岡選手のデートや食事、男子選手の入浴シーンなど、かなりプライベートな部分まで踏み込んで撮影されていましたが。
永岡さんもともとカメラの前で喋るのは苦手だったんです。だから最初は結構緊張しましたね。「なにか喋ったほうがいいのかな?」とソワソワしたり。でも、中村監督は自然体で、いつ撮影しているのかもわからない感じだったので、こちらも自然体でいられたと思います。
中村監督いるのが当たり前だと感じてもらってからが勝負ですから。「じゃあ次家まで行っていいですか」「次のデートに同行してもいいですか」みたいに段階を踏んで少しずつ。
永岡さん不思議と嫌な感じは全然なかったですね。誰かと言い争ったときとか、体調が悪いときなどは、撮影を遠慮してもらうこともありましたけど。
中村監督撮れないものは仕方ないですからね。でも、ひとりで撮ることが多いので、カメラを回していないところでいいシーンが展開されることも多々あるんですよね。「なんで今、回してなかったんだ」ってひとりで落ち込むことも多かったですよ。
永岡さんそうなんですか?そんな葛藤があったとは、今日初めて知りました(笑)。
ーードキュメンタリーならではのお話ですね。見た人の感想はいかがでしたか?
永岡さんよく聞くのは、電動車いすサッカーについて誤解していた、という感想です。遊び半分というか、ただボール回しをする程度の競技だと思っていたのが、実際はすごく迫力もあるし、普通にサッカーの試合を見るのと同じだった、と驚かれます。
中村監督生で見ると迫力が違いますからね。真理ちゃんの蹴ったボールなんて、下手したら受けた方が怪我をするくらいの鋭さで飛んできますから。
永岡さんこの映画を見て気になった方は、ぜひ一度見にきてもらいたいですね。
ーー対談の最後に、互いにメッセージを贈っていただけますか?
中村監督大前提として体を大事にしてもらって、そのうえで次のワールドカップに向けて大活躍してほしいですね。
永岡さん6年ちょっと一緒にいて直接メッセージをもらったのは初めてです(笑)。
中村監督そうだっけ(笑)。
永岡さんどうしよう、って感じなんですけど…監督には感謝しかないです。マイナーな競技を取り上げてくれて、見た人がそれぞれ何かを感じられるような内容に仕上げてくれて。前回ワールドカップでは代表にはなれなかったですけれど、それでも私を含めてたくさんの選手を追いかけて撮影してくださったことに感謝しています。映画『蹴る』があったから、今の私があると思っています。
ーーありがとうございました。
ーー続けて監督に、もう少し映画についてお聞きしたいと思います。最初から完成したときのイメージは持っていたのですか?
中村監督いや全然。真理ちゃんを中心にしようということと、2015年に予定されていたワールドカップまでは撮影しようということくらいです。撮影を始めたときには真理ちゃんが代表に選ばれるとは思っていましたが、現実的にはどうなるかわからなかったですし。何が起きるか予測できないというのは、対象である真理ちゃんや他の選手たちには申し訳ないけれど、撮影する側としてはとても面白かったですね。ただ、ワールドカップが一旦中止になった時にはさすがに途方にくれましたけど(2015年にブラジルでの開催が予定されていたワールドカップが2年間延期、アメリカ開催に変更された)。
ーー介護職員初任者の資格を取得してまで撮影に没頭されたと伺いました。それはご自身のポリシーなのですか?
中村監督知った以上は、きちんと理解しないといけない、という思いは強いですね。以前撮影した『アイ・コンタクト』(2010年。ろう者女子サッカー日本代表を追いかけたドキュメンタリー作品)でも、聴覚障害のある選手たちのことを理解するには絶対手話は覚えなきゃいけないと思いましたし、生半可な理解では、同じ車いすユーザーでもSMA(脊髄性筋萎縮症)と筋ジストロフィーの症状の違いまではわからないじゃないですか。その延長で、どうせ学ぶなら資格を取ってしまった方がいいだろう、と。直接体に触れれば、より相手のことを理解できるし、相手も私のことを信頼してくれる。さらに、仕事として給料をもらえるので、制作費の足しになる。一石三鳥でした(笑)。
ーー障害者サッカーをテーマにしたドキュメンタリー映画を3本つくられていますが、そこにこだわりはあるのでしょうか?
中村監督いや、そんなにこだわりがあったわけではないんです。もともと縁があってサッカー日本代表のDVDのディレクターを務める機会があって、そこからのつながりで知的障害者サッカーをテーマにした『プライド in ブルー』(2007年)を制作して、そこから障害者サッカーに興味を持って、という流れがあったというだけで。実は、どちらかというと女性の複雑さや魅力を描きたいという思いの方が強いんですよ。『プライド in ブルー』だけは違いますけど、『アイ・コンタクト』も『MARCH』(2016年。福島県南相馬市のマーチングバンドを追いかけたドキュメンタリー作品)もそうでしたし、映画を志したときから追いかけているテーマでもあるので。女性とサッカー、障害という要素が結びついたという形ですね。
ーーそれは意外でした。一連の作品づくりを通して感じたことをお聞かせください。
中村監督こんなに自分が知らないことがたくさんあったのか、という驚きです。遥か遠い世界のことならまだしも、こんなにも身近に知的障害や聴覚障害のある人が暮らしていて、自分たちは何も知らないんだな、ということですね。作品をつくるにあたって、最初は自分の興味から入りますが、世に出す以上は、そういう事実を知ってもらわなければ、という思いも当然自覚するようになります。たまたまサッカーや映画という切り口で私の作品を見た人たちが、映画を見た後に障害についてある程度理解を深めてもらえたらうれしいですね。
そのほかの上映情報については、映画『蹴る』公式サイトをご覧ください。
HP:https://keru.pictures/外部リンク
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