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こんにちは、ライターのメグです。私は視覚と下肢に障害があります。
コロナウィルスによる外出自粛が続く現在、自宅で映画鑑賞する機会が増えた人もいるかもしれません。
今回は視覚障害のある人の映画鑑賞についてご紹介します。
私は幼少期、映画は晴眼者が楽しむものだと思っていました。
映画は物語を映像で表現するため、視覚障害の私にとっては楽しめるものではありませんでした。もちろんセリフはありますが、映画のストーリーをセリフのみですべて理解することは不可能です。
それでも、小学校から高校までの私の友達は全員晴眼者だったため、度々映画の話題が出てくるのでした。
その頃はまったく映画を観ていなかったので、毎回話についていくことができず、悔しい思いをしていました。
少しでも友達と共通の話題でしゃべりたいと思い、どうしても観たい映画がある場合には、母に一緒に観に行ってもらい、映画を観ながらその場で状況を説明してもらいました。
しかし、それを行う時にも周囲のお客さんの邪魔にならないよう、互いに肩を寄せ合い母のささやくような声を懸命に聞き取るという、とても肩身の狭い思いをしていました。
「いつか、視覚障害者が堂々と映画を観られるようになるといいな」と、子どもながらに強く願いました。
中学校に上がったころ、初めて音声ガイドの存在を知りました。
音声ガイドとは、映像作品において、視覚情報(場面や登場人物の表情など)を、セリフとセリフの間、または場面転換したタイミングで説明するナレーションのことです。
DVDで購入した映画『盲導犬クイールの一生』には音声ガイドが付いていました。
音声ガイド(当時は、副音声とも呼ばれていました。)という名前は知っていましたが、実際に視聴したのはこの時が初めてでした。
それまで登場人物の風貌も分からなければ、場面も分からないまま観ていたため、どんな映画を観ても、ストーリーがあやふやなままでした。
しかし、ガイドを聞くうちに、クイールがどんな種類の犬なのか、何色の毛並みをしているのか、主人公がどのような風貌なのかなど、色々なことが想像できる感覚に、とても驚きました。
「これが普及していけば、きっと視覚障害者も映画を楽しむことができるようになるはずだ」と、期待が一気に高まりました。
大学1年生の冬、転機が訪れました。
大学の先輩から、晴眼者と視覚障害者が映画を一緒に楽しむ同好会を紹介してもらいました。映画を晴眼者と一緒に楽しむなんてことが本当にできるのか、参加するまでは半信半疑でした。鑑賞会に初めて参加し、その鑑賞方法にとても驚きました。音声ガイドのナレーション担当者が、映画館の映写室から映画を観ながら音声ガイドを読み、それをFMラジオで聞きながら映画を観賞する、というものでした(「ライブ音声ガイド」という手法)。
音声ガイドは、目で観たものを言葉で説明する技術が必要なため、その場で行うなどということは考えたこともありませんでしたし、できるとも思っていませんでした。しかし、ライブ音声ガイド付きで映画を観て、初めてほかのお客さんたちと一緒に笑ったり泣いたりすることができたのです。
「目が見えなくても、映画を観ることができるんだ!」「映画館という同じ場所で、ほかのお客さんと同じタイミングで、笑ったり泣いたりすることができるんだ!」と感動しました。
ライブ音声ガイドで映画を楽しむようになってから2年ほど経つと、技術進歩により、スマートフォン用アプリで音声ガイドを聞きながら映画を観られるようになりました。
あらかじめスマートフォンにアプリをインストールし、観たい映画の音声ガイドデータをダウンロードしておくと、作品が始まったと同時にその場面に合わせた音声ガイドを聞くことができます。
音声ガイドアプリを使ったことがない人がほとんどだと思いますので、音声ガイドアプリならではの注意点もあるので簡単にご紹介します。
アプリはスマートフォンのマイクから映画の音声を拾って音声ガイドが流れる仕組みになっているので、マイクをふさがないように注意が必要です。
また、使用中にメッセージの受信の通知などが来てしまうと、音声ガイドの同期がずれてしまう可能性があるので、機内モードに設定しておきます。
スマートフォンからの光漏れを防ぐために、スクリーンカーテン機能をオンにして、画面を暗くした状態のままで操作できる状態にします。
このアプリの普及により、さらに最新の映画を楽しみやすくなりました。
このアプリがあれば、観に行きたいと思った時に、何度でも観に行くことができるようになったのです。
さらに、今までは晴眼の友達と映画に行く場合は、状況を説明してもらうために親に同伴してもらわなければなりませんでしたが、アプリのおかげでその必要もなくなりました。
映画を観るだけのために親についてきてもらうことにも申し訳なさを感じていましたし、友達と私のみで行きたいという願望があったため、このアプリが開発されたことは私にとって本当にありがたいことでした。
その後、障害者も健常者も一緒に映画を楽しめる映画館(ユニバーサルシアター)も開館しました。その映画館で上映される作品には、全て視覚障害者のための音声ガイドと、聴覚障害者のための字幕が付いています。
さらに、車いすご利用の方のための座席や、「親子鑑賞室」と呼ばれる、親御さんが小さなお子さんと一緒に映画を観ることができる個室も設置されています。
少しずつではありますが、視覚障害者に対する映画鑑賞の手段が増えてきているように感じています。
ユニバーサルシアターについてはこちらの記事もご覧ください。
公開国で放映される映画には、ほぼすべてに音声ガイドが付いています。
英語の音声ガイドがわかる視覚障害者は観ることができますが、それが難しい場合は、洋画はほとんど観ることができません。
日本で公開される洋画は、セキュリティや資金の観点から音声ガイドがつけられないということから、まだまだ対応数は少ないです。
ここでは、洋画の音声ガイドはどのようなものなのか紹介します。
字幕版の洋画では、
の3種類の音が聞こえてきます。字幕ガイドと音声ガイドの区別がつくように、ナレーターがそれぞれ異なります。(作品によっては、同じナレーターが両方読むこともあります。)これら3つの音それぞれの音声が聞き取ることができるよう、音量・音声ガイドが聞こえるタイミングが調整されています。
例えば、作品中で歌を歌っているシーンでは、原音となる俳優の歌声と、歌詞の字幕ガイドが同時に聞こえますが、歌声は字幕ガイドよりも少し小さく聞こえます。歌唱中に動きがある場合には、伴奏中にその描写を音声ガイドで説明します。
ここからは、音声ガイドの視点からおすすめの映画を紹介します。
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』
https://movies.shochiku.co.jp/archive/8nengoshi/(外部サイト)
結婚式の直前に病に倒れた花嫁と、目覚めるまで待ち続けた新郎のストーリーです。
病気のために眠っているシーンが多く、音声ガイドがなければ見ることが難しかった作品です。作中では、ベッドで眠り続けていた主人公が、目を覚ますシーンがあります。
音声ガイドがない場合、この新郎のセリフで目を覚ましたのだろうということは分かります。ただ新郎がマイに自分のことが分かるかと聞いているだけに感じました。
「目を覚ましたのだろうな」と予想しているだけのため、感動が半減してしまいました。
このシーンに音声ガイドが加わると、以下のような描写がされています。
音声ガイド:「病室内が朝日に照らされる。ベッドで静かに眠っている主人公。
ゆっくりと目を開ける。」
「主人公からの視点。周囲を見回し、視線を巡らせる。新郎と視線がぶつかる。」
新郎のセリフ:「マイ、僕だよ。わかる?」
マイが新郎に気が付いたので聞いたことが分かり、新郎が自分のことを思い出してもらおうと必死な様子が伝わってきました。
『打ち上げ花火 下から見るか横から見るか(アニメ版)』
https://www.aniplex.co.jp/uchiagehanabi/(外部サイト)
タイトル通り、花火の映像がたくさん出てきます。映像の美しさは目で見なければ分からないと思いましたが、本作の音声ガイドを聞いた瞬間に、思わず「きれい」とつぶやいていました。
主人公2人が、灯台から花火を見上げるシーンがありますが、花火の音だけが聞こえ、花火が打ちあがっていることしかわかりません。
音声ガイドが加わると、
音声ガイド:灯台に主人公2人がたたずむ。
漆黒の夜空に赤・緑・黄色と追いかけるようにして色とりどりの花火が打ちあがる。
風車やビルに花火の光が反射され、風車やビルなど色のなかった街並が色づく。
もともと色がなかった街並みが、元の色ではなく花火のカラフルな色に色づいているという描写が、現実味のなさがあり、より想像が掻き立てられました。
『帝一の圀』
https://www.aoi-pro.com/jp/work/20170429/24847/(外部サイト)
こんなにストーリー展開の早い作品にも、音声ガイドがあればついていくことができるんだ!と、音声ガイドへの可能性を感じた作品でした。
漫画原作ならではのキャラクターの特徴を早いストーリー展開の中でテンポよく説明されていました。
映画の冒頭で登場人物の紹介のシーンがあります。
効果音や猫の鳴き声がするのが何故なのかは分かりません。
これが音声ガイド付きでは以下のようなシーンになります。
生徒Aのセリフ:「お前、あの先輩のこと知らないのか?」
音声ガイド:ブロンズのロングヘア
生徒Aのセリフ:「名前は氷室ローランド」
<キランという効果音>
音声ガイド:閑静な顔立ち
生徒Aのセリフ:「そして、榊原 光明」
音声ガイド:吊り上がった目、ピンクのロングヘア
<猫の鳴き声>
音声ガイド:猫の肉球柄のグローブを付けている
早口のセリフのわずか3秒ほどの間に、短い音声ガイドがあることで、効果音や猫の鳴き声の意味や登場人物の特徴が分かり、ワクワクしました。
ここまでこの記事をお読みいただくと、様々な映画鑑賞サポートにより、視覚障害者も晴眼者と同じように映画を楽しむことができているように感じる方も多いのではないでしょうか。そこで、視点を変えて、映画鑑賞サポートに対応している映画の本数を比較してみました。
近年主流となっている音声ガイドアプリ対応の映画の本数を見てみると、2019年に公開された映画が1278本に対し、音声ガイドアプリ対応数は82本でした。
映画の種類別にみても、邦画の全公開数689本に対し、音声ガイドアプリ対応数80本、洋画にいたっては、全公開数589本に対し、音声ガイドアプリ対応数は2本でした。特に、この原因は、洋画を日本で公開する契約の際に、音声ガイドをつけるなどの許可がとれていないことにありました。今後は視覚障害者もどのような映画でも観るという意識をもって、こちらの契約も必ずしていただきたいと思います。
上記から分かるように、鑑賞サポートの種類が増えていますが、対応数は、1割にも満たないのです。
きっと鑑賞サポート未対応の映画にも、良い作品はたくさんあるはずです。今後も少しでも多くの映画が鑑賞サポートに対応してもらえるよう、声を上げていきたいと思います。
劇場で公開され人気となった作品(音声ガイドアプリ対応となった作品に限る)が地上波で放映された場合は、映画が放映されたテレビ局が独自で音声ガイドを製作する、もしくは、音声ガイドが付けられずに放映されることがほとんどです。
テレビ局がオリジナルで製作した音声ガイドは、知らされる情報が場面転換のみであったりナレーションのタイミングが遅れたりと、映画のストーリー自体を把握することが非常に困難なものになっています。
劇場で音声ガイドアプリを使用して観賞した時には映画の世界に入り込むほど楽しむことができたにもかかわらず、テレビで観た時には、楽しむことができなかったことも度々ありました。
晴眼者は、劇場で鑑賞した時と変わらない楽しさを味わうことができるにもかかわらず、視覚障害者に限って、楽しさが半減してしまうのはとても残念です。
また、劇場版では音声ガイドアプリに対応していたものが、テレビ放映版では対応されないという事態も大きな問題です。
私が考えるこの問題の打開策は、
①音声ガイド製作会社と相談しながら、テレビ局独自の音声ガイドを製作する
②テレビ版で音声ガイドが付いていない作品に関しては、音声ガイドアプリに収録されていた音声ガイドを使用する
です。
テレビ版になったとしても、視覚障害者には劇場版を観た時と変わらない楽しさを味わってほしいと思います。
外出自粛を機に、動画配信サービスの利用を試みました。
これについての課題は、動画配信サイトがアクセシビリティに対応していないことにあります。
私のような視覚障害者が動画配信サイトなどをインターネットで利用する際には、まずスクリーンリーダー(PCやスマートフォンの文字情報を音声で読み上げるソフト)が対応しているか否かを、実際に操作して調べるところから始まります。
正しく検索できるか、動画を再生できるかなど一通り操作しました。
結果、多くのサイトでページごとにそれぞれ別のスクリーンリーダーで操作しなければならないことが分かりました。
最初、普段使いなれている「スクリーンリーダーA」で操作してみることにしました。
動画を検索するところまでは「スクリーンリーダーA」で操作することができました。
いよいよ動画を観ようとして再生ボタンを探すのですが、ボタンが一向に見当たりません。その時点で、「スクリーンリーダーA」は動画再生ページには対応していないのではないかと考えました。
そこで、「スクリーンリーダーB」に切り替えて操作してみると、「再生ボタン」と音声があり、なんとか再生することができました。
このように、私たち視覚障害者は、実際に操作してみるまでそのサイトが利用できるかどうか分からないのです。
上記の事例から、どのスクリーンリーダーでも利用できる互換性のあるサイトを作成することが求められます。そのためには、サイト作成の段階から視覚障害者を起用し、スクリーンリーダーで利用できるかどうかのユーザビリティテストを経てからリリースすることが必要であると考えます。
また、動画配信サービスを利用しているほかの視覚障害者からは、「スクリーンリーダーでの操作方法が分からない」「音声ガイド対応の作品を検索しやすくしてほしい」などのたくさんの意見が出ています。一方で「意見を発信する場所がない、どこに伝えたらよいのか分からない」という声も上がっています。このことから、視覚障害者に向けた情報提供の場や、視覚障害者から企業側に意見を発信できる場を設けることも必要です。
現在まで視覚障害者に対して映画鑑賞のサポートがされていなかったのは、「視覚に障害があるのだから映画は観ないだろう」という間違った先入観や固定観念があったからなのではないかと考えます。
そのように考えることなく、視覚障害者にも映画を楽しんでほしいと様々な活動をしてくださった、ボランティアの方々や音声ガイドアプリ製作会社の方々に、感謝の気持ちでいっぱいです。映画だけではなく、視覚障害者が楽しむために工夫が必要な芸術や文化活動は、まだまだたくさんあります。今回の記事をお読みいただいた皆様が、工夫をすればだれにでも楽しんでもらうことができるのだということを知っていただけたら嬉しく思います。
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