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株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホックは、現在、J2リーグを舞台に戦っており、茨城県の県央、県北の15市町村をホームタウンとして活動しているサッカークラブです。
「新しい原風景をこの街に」をブランドプロミスとして掲げ、Jリーグの中でも、特に質が高い、地域に根差した取り組みを行っています。
今回は、株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック 経営企画室 事業執行役員の市原 侑祐様に地域社会における取り組みについて茨城県出身の日本ケアフィット共育機構大学生インターン生がお話を伺いました。
どのような取り組みを行っているのか、取り組みを行う上で考えていることや今後の展望について前編・後編に分けてお伝えします。
前編では、水戸ホーリーホックの特徴、地域社会での具体的な取り組みについてお話を伺いました。
2023年2月12日ケーズデンキスタジアム水戸にて撮影
(写真左)
株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック 経営企画室
事業執行役員 市原 侑祐 様
(写真右)
日本ケアフィット共育機構 学生インターン
ライター 飯島 大翔
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科所属
ーーまず、水戸ホーリーホックとはどのようなクラブか教えていただけますか。
市原様端的に言うと、地域の人たちと作り上げているクラブです。1997年2月7日に法人としては設立していますが、クラブが設立したのは1994年で、今年で29年目になります。クラブは、Jリーグに所属していて、まだJ1に昇格したことも、一方で、J3に降格したこともなく、J2という昇格も降格もあるリーグの中で毎年戦っています。近年では、J1昇格が狙えるような成績も納めていますが、クラブの経営規模や売上高は、J2リーグの平均と比較すると、平均よりも約5億円少ない10億円で運営を行なっております。
ホームタウンを見てみると、もともと水戸市だけでしたが、2017年に9市町村に広がり、昨年の10月には県北6市町を加え15市町村に広がりました。ホームタウンの人口数を見ると100万人超の人口規模となるので、100万人超の方々をどのようにスタジアムに招くか、ファンになってもらうかということに愚直に取り組んでいるクラブです。
クラブの歴史的背景をお話ししますと、もともと水戸ホーリーホックというクラブは土浦市にあるプリマハムのサッカー部が起源となります。この部が廃部になってしまうことをきっかけに、水戸にあったサッカーチームと吸収合併という形で1997年に水戸ホーリーホックとしてJリーグの一つ下のカテゴリーであるJFLでスタートしました。なので、すべてが水戸発祥というわけではなく、2つのチームが一緒となってスタートしたというのが、水戸ホーリーホックの歴史、起源となります。今では、プリマハムさんもオフィシャルパートナーとして戻ってきて、クラブを支えていただいています。
ーー現在、水戸ホーリーホックでは地域社会でどのような活動を行っていますか。
市原様水戸ホーリーホックは昨シーズンの売り上げ規模は約10億円。J2リーグの平均売上高は約15億円、J1のクラブの平均は約42億円で、まだまだ経営規模が小さいクラブです。お金を増やす活動と同時に、地域の人々やホームタウンで活動している企業を巻き込んでいかなければなりません。というのも、水戸ホーリーホックには、責任企業と呼ばれる親会社がおらず、ホームタウンで活動している多くの企業さんにサポート、支援をしたりしていただかないとクラブ経営が成り立たちません。地域の課題に対し、クラブが地域に出向いてどのように選手を活用するか、また、ビジネススタッフがどのような取り組みを起こしていけるかがカギになってきます。
具体的な話をすると、MAKE FUTURE PROJECT(外部サイト)というものがあります。これは学校教育の中に入っていき、子どもたちにより実社会に近い経験や体験を学べるようなカリキュラムを作っていかなければいけないなどの教育の課題に対しての取り組みです。我々が学校からの授業を請け負って、選手が学校に訪問し、プロサッカー選手という夢をかなえるために、どういうことをやってきたのかを単純に教えるだけでなく、夢を叶えるまでの過程であった壁やどのような原体験に基づいて今、活動しているのかなどを伝えています。この取り組みは小学校向け、中学校向け、場合によっては幼稚園生、保育園生向けにカリキュラムの構成を変えながら行っています。
市原様また、GRASS ROOTS FARM*という名前で、農業にも取り組んでいます。これも農作物を生産するだけではなく、茨城県の後継者不足で田畑が空いていってしまっているという地域課題に対しての取り組みで、クラブが地域から一部の田畑を借りて畑を運営しています。さらに、地域野菜や特徴的な野菜を作っていて販路を開拓しようとする農家と連携し、サブスクリプション型のビジネスモデルでファン・サポーターの方に販売しています。また、地域の特産品を水戸ホーリーホックのホームゲームの日に道の駅ブースを用意して販売を行なっています。
市原様これらの地域向けの取り組みでは、地域の課題を拾い上げて、クラブが間に入って付加価値をつけ、一部の利益をいただきながら、ファン・サポーターなどのクラブに関わる人たちに情報を届けたり、販売をしたり、価値を提供したりなどのことをいくつかの軸に分けて、運営しています。
*GRASS ROOTS FARM
参考:GRASS ROOTS FARM公式Twitter
https://twitter.com/GRASSROOTSFARM_(外部サイト)
ーー実家でGRASS ROOTS FARMの野菜を頼んでいまして、実家に帰ると母が野菜と一緒に入っているレシピを参考に作ってくれる料理をおいしくいただいております。
市原様ありがとうございます。農事業では、家族向けの商品構成でしか提供できていないのが現状です。しかし、商品の中身や量を調整して、単身者向けや大家族向けなど、あらゆる方々が買い求めやすいように、柔軟に設計を変えながら販売していこうとしていますので、特典を含めて、楽しみにしていただけたらと思っています。
ーー先ほど、水戸ホーリーホックには親会社がないというお話もありましたが、他のJリーグのクラブと比べて、水戸ホーリーホックでは地域社会での取り組みが多いのはなぜでしょうか。
市原様我々のクラブは地域に求められたり、必要とされたりしなければ、基本的には存在価値はないと思っています。なぜなら、サッカーがあろうがなかろうが、日常生活は維持できてしまうからです。すなわち、絶対的に必要なものではない。ただ、一方でサッカークラブがあることで心の豊かさや非日常を体験できる機会を提供できることがサッカークラブ、特に我々のような親会社のいないクラブが求められることだと思っています。つまり、地域に根差すような活動をし続けない限り、我々のファンは増えないし、地域に必要とされる存在にはならないと位置づけています。新たな取り組みをするとき、地域の人たちの課題に向き合えることに繋がっているのか、かつそれが収益性のあるビジネスとして成立しているのかをきちんと整理しながら行っているからこそ、地域に根差した活動が多いのではないかと思います。
ーー昨年からスタートした、ホームタウンPR大使※の活動はシーズン中にも活動していますが、シーズン中に行うことの難しさもあると思います。この活動を行う上で大変なことはありますか。
ホームタウンPR大使とは、2022年にスタートしたホームタウンの15市町村との相互連携と関係強化を目的とした活動のこと
参考:水戸ホーリーホックHP「2023シーズン ホームタウンPR大使決定のお知らせ」
https://www.mito-hollyhock.net/news/p=23810/(外部サイト)
市原様選手のスケジュールと行政、自治体のスケジュールを合わせたうえで進めていかなければならないことが何よりもハードルが大きいことだと思います。具体的には、選手は午前中に練習をしているので、食事、体のケアを終えた後、午後2時、3時以降にしか活動できません。行政の皆様は午後5時半ぐらいで公務が終わりますので、その間で連携した取り組みやPR活動が行えるように調整を行うことが非常に大変です。
一方で選手が非常に協力的であることに助けられています。選手が自主的にオフの時間を使って各市町村に出向いて、メディア投稿サイトのnote(https://www.mito-hollyhock.net/news/p=25007/(外部サイト))で各市町村のPR記事を積極的に書いてくれたり、自分で映像を撮り、編集をしてYouTubeにアップしたり、地域の特産品を自分たちでアレンジしてファン・サポーターの方に届けたいと言ってくれたりなど、選手が意欲的に取り組んでくれたからこそ、調整の難しさなどはありましたが、徐々に価値ある取り組みとして形になってきていると思います。
ーー個人的には、小美玉市のPR大使のメンバーによるゴールパフォーマンスが印象に残っています。
市原様選手が子どもたちから集まった映像を見て、その中からゴールパフォーマンスを選んで実際にパフォーマンスするという取り組みでした。しかし、実際にパフォーマンスしようとしたらなかなか点が入らなかったなど、いろいろな裏話があるのですが、ゴールパフォーマンスしてくれた試合で勝てたり、パフォーマンスしてくれた選手の一人がJ1のクラブに移籍してしまいましたが、移籍先のインタビューでもその件に触れてくれたりしました。活動そのものが対外的にいろいろな価値を生み出していますが、選手自身の心理的な部分にもいろいろと刺さっているものもあると感じています。
ーー選手だけでなく、監督をはじめとするコーチングスタッフも協力的でないとこのような活動は成立しないと思います。
市原様コーチングスタッフがビジネス側の活動に積極的にかつ前向きに協力してくれているのも大きな要因です。秋葉前監督自身も地域に出向いていくことを厭わず、サッカー選手、特に水戸ホーリーホックのような規模の限られた、まだまだ成長過程にあるクラブの選手は、サッカーだけをやっていたらダメだと考えていました。サッカーで結果を出すことは当たり前だけれども、応援している人に求められたり、その期待に応えたり、その人たちが日常でどのようなことを考えたり、どんなことに触れているのかを知って、いろいろな人たちの価値観や考え方を知ることが人格形成や選手としての視野を広げることに繋がり、そのような人たちの思いが日々の練習や試合の結果に左右される。目に見えないことかもしれないけど、そのような人たちの思いを背負って、戦っていかなければならないということを常日頃からおっしゃってくださいました。
加えて、選手やコーチングスタッフを司っている取締役GMの西村も同様に、選手に「オン・ザ・ピッチの追求とオフ・ザ・ピッチの発信」が重要であると伝えています。オン・ザ・ピッチの結果を追求することだけではなくて、オフ・ザ・ピッチでどれだけ自分を発信できるか、考えていることをアウトプットできるかが必ずオン・ザ・ピッチに跳ね返ってくると強く言っています。このような連携があって成り立っている企画だと感じます。
ーークラブで地域の方々と交流する様々な取り組みを行っていますが、その取り組みによりチームとして変化はありますか。
市原様何か大きな変化があったというよりは、クラブがやり続ける、やろうとしている方向性が改めてぶれていないという確信を得ることができたこと、さらに、今までやってきたことは質よりも量だったと認識できました。コロナ前まではとにかくあらゆる場所に出向いてクラブを知ってもらう、認知してもらう形でしたが、コロナが明けて外に出向けるようになり、もちろん量を一定数保つことも大事ですが、そこに質が求められてくると思っています。つまり、やみくもに自分たちのPRをするのではなく、目的を定めて逆算し、地域の人たちが何に課題を感じているのか、どのようなことに貢献すると地域の人たちが喜んでくれるのかという質を考えながら施策や企画を進めていくことでクラブが今までやってきたことが間違っていなかったと強く印象付けることができ、これが徐々にクラブの中で確信に変わってきていると感じています。
後編に続く
高齢者や障害者とのコミュニケーションや接遇(介助)、サービス提供のあり方を学ぶ資格「サービス介助士別のウィンドウで開く」は2000年から始まり、1000社以上の企業がバリアフリー施策、サービス向上、ダイバーシティ&インクルージョン推進の取り組みとして導入しています。
企業として取り組むべき障害者差別解消法の理解や合理的配慮の浸透支援など、共生社会の実現に向けた様々な取り組みを展開しています。
公共交通機関等におけるシームレスな移動支援の実現に向けた 参加型バリアフリー教室&ボッチャ体験会 開催レポート
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11月23日に武蔵小杉駅前のこすぎコアパークで実施した「みえるバリアフリー教室&ボッチャ体験会」を開催しました。このイベントは、国土交通省の「心のバリアフリー推進のためのモデル検討調査事業」の一環として開催されました(共催:川崎市 協力:東急電鉄株式会社、株式会社東急ストア)。
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ケアフィットファーム研修 導入事例(NTTアドバンステクノロジ様)
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ケアフィットファームでは、ダイバーシティ&インクルージョンを体感できる企業研修プログラムを提供しています。今回はNTTアドバンステクノロジ株式会社様が参加されました