オンライントークセミナー開催レポート

9月2日(木)これからの共生社会を考えるオンライントークセミナー
「インクルーシブ防災から誰も置き去りにしない防災を考える」開催レポート

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9月2日(木)これからの共生社会を考えるオンライントークセミナー「インクルーシブ防災から誰も置き去りにしない防災を考える」開催レポート

災害大国である日本ではダイバーシティ&インクルージョンの推進や、SDGsで掲げる“誰一人取り残さない”社会になるために、災害・防災の観点から“誰一人取り残さない防災”に何が必要でしょうか。
多様な人の持続発展できる社会に必要なインクルーシブ防災について社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会 会長の阿部一彦氏にこれまでの事例などを踏まえながらお話しいただきました。

イベントレポート

1.東日本大震災障害者

東日本大震災は本当に驚くべき災害で、たくさんの方が亡くなられました。
震災による直接の死者・行方不明者の数は、18,000人を超えました。
ここで忘れてはならないのが災害関連死*1での死者も多くいたということです。
震災後の環境の悪化によって亡くなられた方は、3,700人以上います。

そうした大災害の中で、障害のある人々も被害を被っています。
簡単に振り返ってみると、次のように整理できます。

  • 障害のある人々の死亡率は全住民の死亡率の2倍以上だった
  • 障害のある人々は、避難行動に困難が大きかった
  • 障害のある人々は、指定避難所に避難できなかった
  • 障害のある人々は、避難生活でとても大きな困難を強いられた
  • 障害のある人々は、孤立することが多かった

次のデータは、仙台市で障害者保健福祉計画を作る際にとったアンケート調査の結果です。
特に知的障害のある方、発達障害のある方はひとりで避難することが難しいことが分かります。
ひとりで避難できない理由としては、身体障害者や難病者は「介助者がいないと移動できないため」「移動に時間がかかるため」、知的障害者や発達障害者は「介助者がいないと移動できないため」「避難勧告などの情報を把握することが困難なため」「判断して行動することができないため」といった答えが多くありました。

(表1)あなたは地震などの災害発生時、ひとりで避難することができますか。
東日本大震災を経験された方は、ご経験を踏まえてご回答ください。

表が見切れている時は横スクロールしてご覧ください。

%

身体障害者難病患者知的障害者発達障害児者精神障害者
65歳未満(家族)(家族)(家族)
できる58.167.64.216.462.3
できない29.219.787.668.619.4
わからない10.99.17.114.315.7
無回答1.93.61.10.72.6

(表2)「ひとりで避難できない」を選んだ方にお尋ねします。
災害のとき一人で避難することができない理由は何ですか。

表が見切れている時は横スクロールしてご覧ください。

%

身体障害者身体障害者難病患者知的障害者発達障害児者障害児精神障害者
65歳未満65歳以上(家族)(家族)(家族)(家族)
介助者がいないと移動できないため58.571.078.943.132.337.816.2
移動に時間がかかるため41.527.836.65.21.02.25.4
避難所での集団生活が難しいため26.621.022.524.230.219.154.1
避難勧告などの情報を把握することが困難なため11.712.35.647.637.540.021.6
避難場所がわからないため8.56.82.86.911.53.08.1
判断して行動することが困難なため7.46.27.051.252.150.935.1
パニックを起こしてしまうため4.33.75.66.018.87.021.6
その他6.43.75.62.07.312.62.7
無回答2.12.501.202.22.7

参考:仙台市障害者等保健福祉基礎調査報告書(PDF)(外部サイト)

また、東日本大震災に被災した仙台市の障害者約200名に対して行った記述式調査から、災害時に必要な配慮を考えていきます。

避難行動時に配慮してほしいこと・困ったこと

  • 災害時にひとりで避難できないので、一緒に避難所まで行ってほしい。
  • ひとりでいたので避難所まで行くことができなかった。
★仙台市における避難行動要支援者名簿*1登録者数の推移

→2011年3月 356人 2012年12月 11,862人 2015年6月 13,499人

*1 避難行動要支援者名簿:災害対策基本法に基づき、災害が発生した際に自力で避難することが難しく、支援を必要とする方々をあらかじめ登録しておく名簿

参考:避難行動要支援者名簿の作成-防災危機管理eカレッジ-総務省消防庁(外部サイト)

避難所生活で配慮してほしいこと・困ったこと

  • 手が不自由なので、避難所での食事配布等のときは配慮してほしい。
  • 避難所では、トイレに行きやすいように居場所などの環境を整えて欲しい。
  • 障害があるためトイレに時間がかかることを理解してほしい。
  • 障害があるため着替えに時間がかかることを理解してほしい。
  • ゆっくりはっきり話して、スムーズに情報が伝わるように配慮してほしい。
★震災後の改善点

→「避難者カード」の記入特記事項の欄に障害があるために配慮してほしいことをできるだけ具体的に記入するように

福祉避難所*2について配慮してほしいこと・困ったこと

  • 避難所での集団生活になじめなかったので、十分な数の福祉避難所を設置してほしい。
  • 同じような障害の人のための避難所があるとよい。
  • 体育館などの避難所では、利用できなかったので避難できなかった。
★震災後の改善点

→東日本大震災時の福祉避難所の指定は52ヵ所で、停電などのためそのうちの26ヵ所のみ開設(緊急要請で14ヵ所追加)平成29年8月時点では、仙台市が指定する福祉避難所は114ヵ所

*2 福祉避難所:おもに高齢者、障害者、乳幼児など、配慮を必要とする方々を滞在させることを想定した避難所

参考:福祉避難所の確保・運営ガイドライン-内閣府防災情報(外部サイト)

在宅避難について配慮してほしいこと・困ったこと

  • 発災後、自宅にとどまっているとき、生活に必要な物資や情報が入手できなかった。
  • 介助しなければならない家族がいるため、食糧や水などの必要な物資を得るために長時間並ぶことができないので、食糧が入手できるようにしてほしい。
  • 障害があるために体育館で集団避難生活することが困難なために、自宅に情報や食料を届けてほしい。
★震災後の改善点

→安否の確認や食料の確保などのため、避難者が「避難者カード」を記入、自宅などで生活して配給が必要な「在宅被災者」を申し出ることができる。

震災を通して様々な課題が浮かび上がり、そして改善していっていることが分かるかと思います。

2. 災害避難に対する意識について

東日本大震災などを経て、災害避難に対する意識は年々変化しています。
仙台市障害者等保健福祉基礎調査によると、知的障害のある方の家族で災害時にあらかじめ近所の人等に避難の手伝いや介助をお願いすることについて、「ぜひお願いしたい」と答えた人の割合は、平成18年で約25%でしたが、平成28年には約48%まで上昇しています。

また、近所に障害などで困っている世帯があった際の対応についても、平成28年度の調査では、「支援を求められたときはお手伝いしたい」と答えた人の割合が60%を超えています。

(グラフ)あなたのご近所で、障害などのために困っている世帯があったらどのような対応をしたいですか。

参考:仙台市障害者等保健福祉基礎調査報告書(外部サイト)

ここから、地域で避難に必要な情報を共有することの大切さが分かります。
実際に、東日本大震災後の地域生活では、外見上障害がわかる下肢障害者等は、近所の人々が給水車から水を運んでくれたり、長時間並んで入手した食料品を届けてくれたりした例が多数報告されています。
しかし、外見では障害が分からない内部障害や精神障害者などは、地域の人々との関わりがなく、困難な生活を強いられ続けたという事実もあります。

障害に関する偏見を取り除き、必要な配慮、必要な支援について周囲に伝えることが当たり前になる地域づくりが大切です。

3. 誰も取り残さないための「自助」

これまでのお話のように、地域で互いに支え合う「共助」は防災において非常に重要ですが、同じぐらい「自助」、ひとりひとりができることをすることも大切です。

例えば次のようなことを私たちは実践できているでしょうか?

  • 災害知識、避難経路の確認
    →ハザードマップで点検、避難行動判定フロー*3、マイ・タイムライン*4の活用
  • 安全な住まい
    →建物の耐震性、家具の転倒防止など、消火器等の準備
  • 援助の依頼
    →普段からの近所づきあい、どのような援助が必要か明確に伝える
  • 非常用持ち出し品の準備、備蓄
    →飲料水・食料、10日分の医薬品・福祉用品 災害時ライフカード(緊急連絡カード)など

*3避難行動判定フロー:内閣府が定めた、ハザードマップと合わせて確認することにより、居住する地域の災害リスクや住宅の条件等を考慮したうえでとるべき避難行動や適切な避難先を判断できるようにしたもの。

参考:「避難行動判定フロー」を確認しましょう-内閣府防災情報(外部サイト)

*4 マイ・タイムライン:災害が発生する前に、ひとりひとりの環境に合わせて作成した避難行動計画のこと

参考:手書きで作るマイ・タイムライン(外部サイト)

災害時の「自助」について平成30年7月の西日本豪雨では、その後の検討会で「住民が『自らの命は自らが守る』意識をもって自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援するという住民主体の取り組み強化による防災意識の高い社会を構築する」必要性が指摘されています。

4.インクルーシブ防災とは

いま、社会ではユニバーサルデザイン2020行動計画など、誰もが暮らしやすい社会を作るための取り組みが数多く実施されています。
移動しやすく生活しやすいユニバーサルデザインの街づくりは、災害発生時に障害のある人を含め人々の避難行動を円滑にすることから、災害に強くしなやかな国づくりの観点からも重要な取り組みであるといえます。

しかしながら、そうした「公助」だけでは限界があります。ひとりひとりが災害時どのように行動するのか、どのように対応するのかを考えておく「自助」。そして、なにより地域の住民組織との相互理解と連携を図り、誰もが孤立することのないインクルーシブな共生社会のための活動である「共助」が重要です。

「インクルーシブ防災」の実現は「インクルーシブ社会」から始まります。

次回開催情報

【10/20(水)】これからの共生社会を考えるオンライントークセミナー「バリアフルレストラン 反転社会から“当たり前”を見直す」

開催日時2021年10月20日(水) 13:00-14:00
開催形式完全オンライン(ZOOMウェビナー利用)
手話通訳者を配置。UDトークによる字幕表示(予定)
参加費無料
ご登壇者様 川崎市市民文化局オリンピック・パラリンピック推進室 様
モデレーター公益財団法人日本ケアフィット共育機構 理事 髙木 友子
プログラム
  • 川崎市様 ご講演 25分
    ・パラリンピック・共生社会関連のお取り組み
  • バリアCAFE・バリアフルレストラン@二子玉川の事例紹介(川崎市様&ケアフィット)
  • 今後のバリアフルレストランの展開について(ケアフィット)

お申込みはこちら

公益財団法人日本ケアフィット共育機構

高齢者や障害者とのコミュニケーションや接遇(介助)、サービス提供のあり方を学ぶ資格「サービス介助士別のウィンドウで開く」は2000年から始まり、1000社以上の企業がバリアフリー施策、サービス向上、ダイバーシティ&インクルージョン推進の取り組みとして導入しています。
企業として取り組むべき障害者差別解消法の理解や合理的配慮の浸透支援など、共生社会の実現に向けた様々な取り組みを展開しています。

公益財団法人日本ケアフィット共育機構


リベル・ケアフィット 〜「気づき」が集う場所〜

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